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2007年6月15日 (金)

夢を紡ぐ者

いつか、まとめてみようと思うことがけっこうある。その中でも、とびきりロマンに満ちたものがある。


歴史的な観点で「夢を紡ぐ」、ということは、決してポエティックな表現のみの存在ではない。歴史は本当に、紡いでいるのだ。
哲学史や科学史なんかは特にそれが顕著で、例えばプラトンの夢を紡いだのはプロティノスでありアウグスティヌスであり、もしくはトマス・モアだったりライプニッツだったりマルクスだったりするわけだ。これはイデアの夢の場合である。
さて、中でも哲学・科学を貫く夢の祖と言えばピタゴラスである。伝説的なマテマティカル・マジシャンだ。
ピタゴラスは数学の美しさを初めて発見した人物だった。そして、ピタゴラスにとって世界は数であった。だから、世界は数学的に美しくあるべきだ…
こうして、ピタゴラスの夢が発動する。ピタゴラスは音の数学的規則性を発見し、それを宇宙に応用しようとした。宇宙は、おのれの規則性から発する、耳には聴こえない壮大な交響曲を奏でている。
ピタゴラスの夢はそんな美しい、数学的調和のとれた世界だった。その意志はピタゴラス教団に受け継がれたにちがいない。


その後、哲学史の巨人プラトンは、ピタゴラスの夢を受け継ぐことになる。
プラトンは最初、ソクラテスの夢を受け継いだ。愛すべき師が目の前で国家に殺されて、その哲学を継いだのだ。
しかし、プラトンにはこれが転機になった。失意のうちに旅を重ねるうち、ピタゴラス教団と交わることになったのだ。そうして、その教義の美しさに打たれたにちがいない。プラトンはピタゴラスの哲学をも取り込んだのだ。
こうしてアテネに戻ったプラトンはアカデメイアを建設、教育と著作に専念する。
そして、プラトンは『国家』を書いた。師を殺した国家への疑問、その答えを出そうとしたのだ。その本編の最後に「エルの物語」を置いた。そこで描かれた死後の世界は、まさにピタゴラスの夢そのもの…幾何学的に美しい、調和の世界だった。その宇宙からは、星界の音楽ハルモニアーつまり宇宙のハーモニーであるーが溢れていた。
これが、ソクラテスの夢とピタゴラスの夢を合わせた、プラトンの夢であった。


時代が下って古代ローマに、キケロが夢を紡いだ。彼はプラトンを意識していたのだろう、同名の『国家』の最後の「スキピオの夢」だ。
そこではポエニ戦争の両英雄、祖父の大スキピオから孫の小スキピオへの夢という、非常に美しい形式でピタゴラス的調和の世界が描かれる。
キケロは、スキピオの夢としてピタゴラスの夢を、プラトンの夢を、キケロの夢を語ったのだ。こうして夢は紡がれた。


ヨハネス・ケプラー。三十年戦争時代のドイツを生きた天文学者。彼が、たぶん最後の、ピタゴラス主義者であった。
コペルニクスからガリレイ、ケプラー、ニュートンと流れる科学革命の時代、中心は最古の科学たる天文学であった。
もともと天文学は占星術や神秘主義と密接で、コペルニクスですらヘルメス・トリスメギストスの神秘思想から地動説を思いついたほどなのだ。
そしてケプラーは徹底したピタゴラス主義者だった。彼はいわゆるケプラーの三法則の発見も、ピタゴラス的世界観を保証するものとしたし、著作にも『宇宙の神秘』『宇宙の調和』というピタゴラス的宇宙を解説したものがあった。
ケプラーは、天文学を使って、宇宙に響き渡る荘厳な調和の交響曲を、数学的採譜をしようとしたのだ。

ピタゴラスの夢、プラトンの夢、キケロの夢、ケプラーの夢。その世界は確かに真実ではない、しかし、どうしようもなく、美しいのだ。

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コメント

私…何にも知らなかったですただただピタゴラスとプラトンとケプラーが感覚的(といえばプラトンに怒られるので直感的…(笑))に好きなだけだったんで…びっくりしています非常に!!ありがとうございます☆

こういう“結び”の作業って面白いですよね。全体と部分を縦横無尽に見れて。
にしてもプラトンは時代の転換点に出てきますね、ローマの終焉時にはネオプラトニズム、ルネサンスにはフィチーノのプラトン・アカデミー、そして科学革命時はケプラーやライプニッツがいます。
ホワイトヘッドは「全西洋哲学はプラトンの脚注だ」と言いますが、まさにしかりです。

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